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エピソード1
「思いを結ぶ」
きものには、装う人への「思い」も込められています。かつて、私は「きつけ宅配」を行っていました。お宮参り、七五三、卒業式、成人式、結婚式など、いろいろな節目に呼ばれました。小さな子が育って、やがて卒業式、成人式を迎えていきます。そのような時、子の幸せを祈る両親の「思い」を感じました。 母が娘に自分のきものを手渡す場面にもよく立ち会いました。三代に渡ってお手伝いしたご家族もあります。祖母から受け継がれたきものは、祖母の「思い」とともに、母から娘に渡されます。あるとき、成人式の着つけをしていると、古めかしい感じのきものを持ってきた娘さんがいました。丈は短く、小物も華やかさがなく、ややアンバランスでした。周りは華やかで美しいきものばかりです。どう着つけたらいいものか思案する私に、彼女は「どうしても母のきものを着たいんです」と訴えました。私は、母と娘の「思い」を結ぶかのように、シッカリと帯を結びました。そして、「どんな高価なきものよりステキよ。親から子へ手渡されたきものには、愛情が込められているの。胸を張って成人式にいってらっしゃい!」と送り出しました。母のきものを着た娘さんは、とても嬉しそうに、豊かな表情をしていました。 きものには、職人たちの「思い」、そして装う人への「思い」が込められています。私にとって着つけは、「思い」を結ぶお手伝いです。これからも人の「思い」を大切に結んで参ります。
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