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エピソード1
「一生のよりどころ」

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あるとき、母校の現校長先生から「髙野さん、どうしても礼法という科目名で授業をしてほしい」という嬉しいお申し出をいただきました。「礼法は誇るべき日本の文化です」ともおっしゃいました。授業は選択科目としてスタート。100名程の生徒が集まり、その後、履修科目になりました。私は、「一生のよりどころとなる自信をつけてあげたい」という思いで授業をしています。  ある生徒が提出したレポートが忘れられません。彼は小学生から野球部に所属し、7年間「挨拶をしっかりできる人になりなさい」と言われ続けましたが、挨拶がなぜ大切なのかわかりませんでした。その後、彼は高校3年生となり野球部の主将になりました。指示を出す側に立って、最初に選手たちに話したことは挨拶の大切さです。  挨拶は不思議なもので、その人の心を映し出します。「形から入り、心に至る」。彼は挨拶を繰り返し整えることの大切さに気づきました。そしてレポートに「挨拶とは人の心である」と書いてくれたのです。  私は、講義や授業の始まりと終わりに、挨拶を徹底的に正します。反復練習で心を磨いていきます。相手を「尊び」「感謝」する心で向き合うことの大切さを体得してもらうのです。 高校生は、身だしなみを整えることから始めます。袖まくりをしている人は、袖を下ろしてボタンをきちんとしめる、だらしなく履いているソックスはきちんと整える、などなど。すべてを整えるまで絶対に座らせません。いやになって叫ぶ男子、ふてぶてしい女子。「私はしつこいの」と言いながら続けます。  高校3年生の春、私は、毎年新しい生徒と出会います。教室は賑やかで、私の喉はかれます。授業後は、思考停止になるほど体力と気力を消耗します。毎年のように私の愛情を試す生徒が現われ、さまざまな挑戦を果敢にしてきます。  夏、生徒たちは進路に向けて本気になる時期を迎えます。ある時、授業でチーム力をテーマにしたワークを100名近い生徒と行っていると、ある生徒がキレて収拾がつかない状態になりました。周りはシーンとなって様子を伺っています。私はその生徒の横に寄り添い、肩に手を触れて「どうした?」と声をかけました。彼は、うつ向きながら「俺もいろいろあって、ごめん」「悪いのは俺らだ、先生ごめん」と言いました。  秋になると、なにかにつけて文句を言っていた男子が、「おまえらちゃんとやれ!」とクラスメートに声をかけるようになりました。形が整うのと時を同じくして、心が整ってきたのです。  授業では、毎回、繰り返し徹底して「礼の心」を実践します。目には見えないけれど、一人ひとりの心の成長を感じます。彼らにとって、「礼法」と取っ組み合った時間は、一生のよりどころとなる「自信」になったと信じています。

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